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freedom 76 ~finale~




いよいよ物件の契約も済んで、引越しの日取りも決まった。
そのお祝いに明日、一緒に夕飯を食べようとユノから電話がかかってきた。
じゃあ7時半にあそこのカフェで待ち合わせしてから一緒に帰ろうと約束して。


待ち合わせの時間より早くカフェに到着した僕は
窓際の席に座って、コーヒーを飲みながら小説を読んでユノを待つことにした。


コーヒーを飲み終わって辺りを見ると、隣のテーブルの人も待ち合わせた相手が来たらしく
席を立っていく。
向かいの人も・・。


はぁ・・・ユノ、遅いな。


時計を見ると、もうじき8時になろうとしてる。
仕事が終わらないのかな・・・。


もう一度読みかけのページに視線を落として続きを読んでいると。



「・・・・チャンミン・・・?」


ふいに声を掛けられて、僕は「ああユノ、遅かったね」と顔を上げる。



「ああ、やっぱりチャンミンだ。・・・元気?」



それは・・・一年前に付き合ってた彼だった。
ユノを忘れることができなくて、僕から別れを告げた彼。
僕の瞳の奥にいつも彼以外の誰かがいることに気づいていながら、僕にずっと優しくしてくれた彼。


にっこり僕の顔を見て微笑んだその表情が、懐かしくもあった。


元気、そうだね・・・よかった・・・。
僕はその笑顔を見て、切なくなった。
彼を大切にしきれなかった自分の苦い思い出も混じっていたから。


今どこに住んでるの?
・・・ああ、あの時と変わらない、一緒のところだよ。でももうじき引っ越すんだ。
そうなんだ。相変わらず忙しい、仕事?
うんまあまあね。そっちも忙しいの?
ああ、ぼちぼち・・。


チャンミン・・あれから・・幸せでいるの?


そう聞かれて。

僕は黙って彼に、微笑んだ。


そうか、よかった。幸せで・・・。
そう言って彼は僕の顔を見つめて、じゃあもう行くねと言ってカフェを出て行った。


彼も、待ち合わせしてたんだ。
その証拠に、彼はカフェを出たところで待ち人を見つけたらしく、
笑顔でその人に手を振って走っていくのが見えた。

幸せそうな顔をしていた彼に会えて、よかった。
僕の相手が彼じゃなかったのと同じで、彼の相手は僕じゃなかったのだろうと
そして今はお互いに違う道を歩いていても、幸せでいれることに僕は感謝した。


「チャンミンごめん!待ったよね」


物思いにふけっていたからか、ユノが到着したことに気がつかなかった。
仕事が片付かなくて・・・さっき電話したのに気がつかなかった?と言われて携帯を見ると
確かにユノからの着信が残っていた。


「本読んでて気がつかなかったみたいだ・・・」


うん、チャンミン本読んでたね。
なんだ、僕のこと見てたの?
うん。窓際に座って本読んでるチャンミン見つけて・・ちょっと見とれてた。
ふふふ、見とれてたんだ。気がつかなかった。


うん・・そしたらチャンミン誰かと話してた・・・。
あ、見てたのユノ?
うん。あの人、誰?もしかして・・ナンパ?
え?僕がナンパされてたと思ったの?
・・・冗談だよ・・・友達?
・・友達っていうか・・・知り合い・・・。


ふぅん・・とユノが心なしか気に入らなそうな顔をする。


何ユノ?
・・・なんでもない。
・・じゃあいいけど。


やっぱりユノの表情が変だ。
ここで僕が必死に何か言ったら余計に勘ぐられるかな・・?


・・・ただの・・知り合いなのチャンミン?


ちょっとだけ不安そうな顔を僕に見せる。

・・隠すことでもないし。
ユノを不安がらせるのは本意じゃないから。


ユノ・・あの人と・・・前に付き合ってた時があった・・。
えっ?


ユノの顔がみるみるうちに暗くなっていじけた顔をする。
嘘をつきたくなかったから本当のことを言ったけど、言わない方が良かったのかな。
僕だってもしユノがこれまで付き合ってた人を現実にこの目で見たら・・落ち込むよ。
でも、はぐらかしたくなかった。


ユノ?もう一年以上も前のことだよ。
チャンミン、あの人と付き合ってたの?
そう。付き合ってた。
・・・あの人のこと、好きだったの?
・・うん。でも別れたんだ。
・・・・なんで?

・・・ユノのこと、忘れられなかったから。



「チャンミン・・・ホント?」


「ホントだよ、ユノ。ユノがずっとずっと好きだったから。彼にそう言って別れた」


ユノの目が潤んでる。


「大好きだよ、ユノ。僕はユノだけ」


ユノ、出ようか。ご飯食べに行こう。
そう言ってカフェを後にする。

そうしたのは、ユノの手を握って、愛してるって言いたかったから。
ユノの手を引っ張って、僕のコートのポケットに手を入れさせて
その上から僕の手を重ねた。


「ユノ?・・・僕にはずっとユノだけなんだよ」


ユノしかいなんだ僕には。
だから・・・不安に思わなくっていい。


「チャンミン・・俺だけ?」


「そうだよ、ユノとチャットし始めてから今の今までユノ一筋なんだ、僕は」


ユノは安心したみたいで、目をキラキラさせながら僕に微笑みかえす。



「ねぇチャンミン、あのさ、引越しのお祝いを買ってきたよ」


え?なになに?
ご飯食べながら見せるよ。チャンミン絶対気にいるから!



ユノのいつものかわいい笑顔をみると僕は安心する。


ふと空を見上げたら、いつもは都会の灯りで見えない星がたくさん見えた。
冬の凍った空気の中で、一つ一つの星が輝いて見えた。



星を見ながら、僕はこれまでのいろんなことを思い出していた。


あの時、ユノという人とチャットで出会って。


顔もしらないユノに恋をして、初めてユノに会った時のこと。


会ったら余計にユノが忘れられなくて、ユノに好きだと言えずに苦しんだこと。


自分の気持ちがユノに伝わったのに、別れを選んだこと。


そして、またユノと出会って、また別れて。


それでもまた再会して。



こうして、今ユノと一緒にいれること。



偶然、じゃない。


ユノは、僕がずっと探してた人なんだ。


どんな時も、僕らしくいることで、ユノが僕を見つけてくれた。


ユノ、大好きだよ。
これから、ずっと。


ずっと一緒だよ。


僕の心は、誰にも縛られない。
そしてその先には、ユノ、あなたがいる。



寒空に輝く星が、僕とユノを見守っていてくれる気がした。



「ユノ!お腹すいたから急ごう!」



ユノの手をひっぱって、僕とユノは家路に急いだ。




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当初、短編です、と言っていましたfreedom、完結しました。
長い間、お付き合いいただいてありがとうございました。
取り急ぎ、いつもこのサイトに足を運んでいただいた皆様、
暖かいコメントを下さった皆様に感謝の気持ちを込めて。

Noah

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freedom

freedom 76 ~finale~

2013/01/19



いよいよ物件の契約も済んで、引越しの日取りも決まった。
そのお祝いに明日、一緒に夕飯を食べようとユノから電話がかかってきた。
じゃあ7時半にあそこのカフェで待ち合わせしてから一緒に帰ろうと約束して。


待ち合わせの時間より早くカフェに到着した僕は
窓際の席に座って、コーヒーを飲みながら小説を読んでユノを待つことにした。


コーヒーを飲み終わって辺りを見ると、隣のテーブルの人も待ち合わせた相手が来たらしく
席を立っていく。
向かいの人も・・。


はぁ・・・ユノ、遅いな。


時計を見ると、もうじき8時になろうとしてる。
仕事が終わらないのかな・・・。


もう一度読みかけのページに視線を落として続きを読んでいると。



「・・・・チャンミン・・・?」


ふいに声を掛けられて、僕は「ああユノ、遅かったね」と顔を上げる。



「ああ、やっぱりチャンミンだ。・・・元気?」



それは・・・一年前に付き合ってた彼だった。
ユノを忘れることができなくて、僕から別れを告げた彼。
僕の瞳の奥にいつも彼以外の誰かがいることに気づいていながら、僕にずっと優しくしてくれた彼。


にっこり僕の顔を見て微笑んだその表情が、懐かしくもあった。


元気、そうだね・・・よかった・・・。
僕はその笑顔を見て、切なくなった。
彼を大切にしきれなかった自分の苦い思い出も混じっていたから。


今どこに住んでるの?
・・・ああ、あの時と変わらない、一緒のところだよ。でももうじき引っ越すんだ。
そうなんだ。相変わらず忙しい、仕事?
うんまあまあね。そっちも忙しいの?
ああ、ぼちぼち・・。


チャンミン・・あれから・・幸せでいるの?


そう聞かれて。

僕は黙って彼に、微笑んだ。


そうか、よかった。幸せで・・・。
そう言って彼は僕の顔を見つめて、じゃあもう行くねと言ってカフェを出て行った。


彼も、待ち合わせしてたんだ。
その証拠に、彼はカフェを出たところで待ち人を見つけたらしく、
笑顔でその人に手を振って走っていくのが見えた。

幸せそうな顔をしていた彼に会えて、よかった。
僕の相手が彼じゃなかったのと同じで、彼の相手は僕じゃなかったのだろうと
そして今はお互いに違う道を歩いていても、幸せでいれることに僕は感謝した。


「チャンミンごめん!待ったよね」


物思いにふけっていたからか、ユノが到着したことに気がつかなかった。
仕事が片付かなくて・・・さっき電話したのに気がつかなかった?と言われて携帯を見ると
確かにユノからの着信が残っていた。


「本読んでて気がつかなかったみたいだ・・・」


うん、チャンミン本読んでたね。
なんだ、僕のこと見てたの?
うん。窓際に座って本読んでるチャンミン見つけて・・ちょっと見とれてた。
ふふふ、見とれてたんだ。気がつかなかった。


うん・・そしたらチャンミン誰かと話してた・・・。
あ、見てたのユノ?
うん。あの人、誰?もしかして・・ナンパ?
え?僕がナンパされてたと思ったの?
・・・冗談だよ・・・友達?
・・友達っていうか・・・知り合い・・・。


ふぅん・・とユノが心なしか気に入らなそうな顔をする。


何ユノ?
・・・なんでもない。
・・じゃあいいけど。


やっぱりユノの表情が変だ。
ここで僕が必死に何か言ったら余計に勘ぐられるかな・・?


・・・ただの・・知り合いなのチャンミン?


ちょっとだけ不安そうな顔を僕に見せる。

・・隠すことでもないし。
ユノを不安がらせるのは本意じゃないから。


ユノ・・あの人と・・・前に付き合ってた時があった・・。
えっ?


ユノの顔がみるみるうちに暗くなっていじけた顔をする。
嘘をつきたくなかったから本当のことを言ったけど、言わない方が良かったのかな。
僕だってもしユノがこれまで付き合ってた人を現実にこの目で見たら・・落ち込むよ。
でも、はぐらかしたくなかった。


ユノ?もう一年以上も前のことだよ。
チャンミン、あの人と付き合ってたの?
そう。付き合ってた。
・・・あの人のこと、好きだったの?
・・うん。でも別れたんだ。
・・・・なんで?

・・・ユノのこと、忘れられなかったから。



「チャンミン・・・ホント?」


「ホントだよ、ユノ。ユノがずっとずっと好きだったから。彼にそう言って別れた」


ユノの目が潤んでる。


「大好きだよ、ユノ。僕はユノだけ」


ユノ、出ようか。ご飯食べに行こう。
そう言ってカフェを後にする。

そうしたのは、ユノの手を握って、愛してるって言いたかったから。
ユノの手を引っ張って、僕のコートのポケットに手を入れさせて
その上から僕の手を重ねた。


「ユノ?・・・僕にはずっとユノだけなんだよ」


ユノしかいなんだ僕には。
だから・・・不安に思わなくっていい。


「チャンミン・・俺だけ?」


「そうだよ、ユノとチャットし始めてから今の今までユノ一筋なんだ、僕は」


ユノは安心したみたいで、目をキラキラさせながら僕に微笑みかえす。



「ねぇチャンミン、あのさ、引越しのお祝いを買ってきたよ」


え?なになに?
ご飯食べながら見せるよ。チャンミン絶対気にいるから!



ユノのいつものかわいい笑顔をみると僕は安心する。


ふと空を見上げたら、いつもは都会の灯りで見えない星がたくさん見えた。
冬の凍った空気の中で、一つ一つの星が輝いて見えた。



星を見ながら、僕はこれまでのいろんなことを思い出していた。


あの時、ユノという人とチャットで出会って。


顔もしらないユノに恋をして、初めてユノに会った時のこと。


会ったら余計にユノが忘れられなくて、ユノに好きだと言えずに苦しんだこと。


自分の気持ちがユノに伝わったのに、別れを選んだこと。


そして、またユノと出会って、また別れて。


それでもまた再会して。



こうして、今ユノと一緒にいれること。



偶然、じゃない。


ユノは、僕がずっと探してた人なんだ。


どんな時も、僕らしくいることで、ユノが僕を見つけてくれた。


ユノ、大好きだよ。
これから、ずっと。


ずっと一緒だよ。


僕の心は、誰にも縛られない。
そしてその先には、ユノ、あなたがいる。



寒空に輝く星が、僕とユノを見守っていてくれる気がした。



「ユノ!お腹すいたから急ごう!」



ユノの手をひっぱって、僕とユノは家路に急いだ。




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当初、短編です、と言っていましたfreedom、完結しました。
長い間、お付き合いいただいてありがとうございました。
取り急ぎ、いつもこのサイトに足を運んでいただいた皆様、
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freedom 75

2013/01/18



ユノと一緒に住むことを決めてから、
今までは気がつかなかったユノのいろんな側面を見れたような気がする。

ほぼ毎週末、どっちかの部屋に泊まって過ごすようになって。
物件の間取りをみて、あーだこーだ言うのは大体、僕。
ユノはそれを横で聞いて、「そうだねチャンミン」と相槌をうつ係。

今度住もうと目星をつけてる物件は、2ベッドルームにリビングの部屋。
クーパーもいるから、そのことも考えると大きい部屋があると嬉しいけど
家賃のこともあるから、贅沢なことは言ってられない。
でも、それぞれの部屋は必要だねってことで。

その物件はベッドルームの大きさが違うことが、ちょっと僕には気になっていた。


「チャンミンが大きいベッドルーム使えばいいじゃん」


ユノはそう言うけど。
それもなんだか申し訳ない。
リビングもあるからいいよ、と言われる。

僕は社交的なタイプとは言い難く、休みの日はうちで読書したり、ゲームしたり、
ビール飲んだりってことが多い。
ユノは・・・たぶん正反対。
いつも何か「動いてる」。そんな感じ。
チャンミンがくつろげるように、大きいベッドルーム使えばいいよ、と言うから、
じゃあ・・ありがと・・・とユノの言葉に甘えてそうさせてもらうことにした。


リビングは?
お互い持ってる家具を頭に思い浮かべて。
新しく買ったほうがいいものは、二人で考えて。
ユノ、こんなのどう?と僕が提案すると。
どれどれ、と見ながら、結局「チャンミンがいいなら俺もいいよ」。


ユノの部屋に泊まった翌朝、ベッドの中でリビングに置くソファのことを話してたら
ユノの「チャンミンが気に入ってるならそうしよ」という何気ない言葉がきっかけで、口喧嘩になった。


「ユノはさ、どうでもいいんだよね。僕が何言っても、いいよ、なんておかしいだろ?」


ユノは僕が声をちょっと荒らげたから、驚いたみたいだった。


「え~?チャンミンどうしたんだよぉ。怖い顔してさ」


その物言いに余計に腹が立った。
真面目に僕の話を聞いてない、そう思ったから。


「二人で住むっていうのに、ユノはどうでもいいの?」


ユノは腕を伸ばして、僕を抱きしめようとするから
僕はそんなことで騙されない!と躍起になってユノの腕を振りほどいた。


「チャンミン?なんで怒ってるの?ここ、怒るとこじゃないよ?」


僕の意見に同意することで感謝されることはあっても、
なんで気分を害されなきゃならないんだ、とユノは感じたらしい。


そんなことに怒ってるんじゃない。
ユノの意見を聞いても、僕がいいっていうならそれでいい、なんて。
二人の生活を楽しみにしてない証拠だ、と言ってしまった。


「そうじゃないよチャンミン。俺、あんまりこだわりないんだ」


じゃあ、僕がこだわりすぎるっていうこと!?とまた僕はき~っとなってしまった。


チャンミン違うって。
何が違うんだよ?ユノは僕のこと、好きじゃないだろ?
え~!!なんでそんな・・チャンミンおかしいよ。


僕がベッドから飛び出して、たたんであった洋服を着る。


「チャンミンどこ行くの?!?」


見ればわかるだろ、帰る!


僕はユノの顔もみないで、シャツのボタンもしっかり止めずに
上着を来て飛び出した。


「チャンミン待って!」


後ろでユノの声が聞こえたけど、締めたドアでその声はかき消された。


ユノのこと、許してやんないからな・・・!
ブツブツ言いながら僕は大通りに出る。


早歩きで地下鉄を捕まえようと駅に向かいながら
ちょっとだけ・・・後悔し始めた。

おまけに・・・寒い。

ユノからクリスマスプレゼントにもらったマフラー、置いてきちゃった。
寒いな。
でも・・・今さら取りに行けないし・・・。
はぁ・・・とため息をついて、仕方なくとぼとぼと駅方面に向かって歩き出す。


その時


「チャンミ~ン!」


背後で僕の名前を呼ぶ声がした。


ちらっと振り向くと、ユノが追いかけてきていた。


「チャンミ~ン待ってよ~!!」


手を振りながら一生懸命走ってくる。
それを見ながら、ちょっとどころか激しく後悔した。


僕に追いついたユノは、はぁはぁ白い息を吐きながら、両膝に手をつきながら息を整えようとしてる。


「チャンミン・・・もう・・・いきなり出てっちゃうから・・」


僕は黙ってユノを見つめて。
ごめんなさい・・・と謝りたい気持ちもあったけど、ひっこみがつかなくなった。


「チャンミン帰ろ?寒いでしょ?マフラーもしないで風邪ひいちゃうよ」


ユノが僕の首にマフラーをぐるぐる巻いてくれた。
黙ったままの僕の手を引っ張って、結局僕はユノの部屋に戻った。


「チャンミン?・・俺、チャンミンとの生活をどうでもいいなんて、思ってないよ」


・・それは・・・僕もわかってはいるけど・・・。
でも、それならそうと言って欲しい。


「チャンミンが俺と一緒にいてくれるっていうだけで、もう俺は胸が一杯で・・。でも、俺の言い方が悪かったね。ごめんなチャンミン」


わかってる、わかってるよユノ。


「それに・・・。ホントはベッドルームだって一つでもいいんだ・・。一緒に住むのに別々のベッドで寝るなんて・・。チャンミンと一緒にいつも寝たい。でも、チャンミンが一人で寝たいって時もあるだろうから・・。チャンミンがいいって言ってくれたらいつもチャンミンの部屋に行くよ・・。俺からのリクエストはそれだけだよ」


ああ、本当に分が悪い。
僕は、強く出た手前、どう返していいかわからなくて。
意味もなくぷく~っとふくれた。


「チャンミンまだ怒ってるの?」


ん?とユノが僕のほっぺたをつんとつっつく。


「ムキになるチャンミンもかわいいけど・・・。でも怒る前にちゃんと言ってね?」


俺、鈍感なとこあるけど、言ってくれたら物分かりはいいと思うからさ、とユノが笑う。


「チャンミン・・好き。だからもう機嫌直して」


唇を尖らせてみる。


「チャンミン?好きだよ。チャンミンは俺のこと、好き?」


ここらへんでちゃんと仲直りしないともっと後悔する。
こくんと、言葉もなく頷くと。


「チャンミン、ちゃんと言って?・・・俺のこと、好き?」


・・・ん・・・好き。


ちっちゃい声で言う。
ユノはにっこり笑って「よかった。じゃあもう仲直りね」
ちゅっと僕のほっぺたにキスをしてくれた。


それにしてもチャンミン、寒かったね。もう少しベッドにいようよ。


「ユノ・・・ごめんなさい・・・」
ぼそっと僕が謝ると、「チャンミンいいよ。もうホントに仲直り」


喧嘩のあとのベッドは・・・とってもあったかかった。


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freedom 74

2013/01/16



それから。


週末、ユノと物件探しを始めた。
ユノと僕のそれぞれの会社から無理なく通勤できる場所にあるところを条件として。
あとは、お金のこと・・・家賃や光熱費、食費をどう折半するか、とか、家事の分担のこととか、
・・・いろいろ納得行くまで話し合った。

ユノはそういうところ、率直に話してくれて。
話を聞きながら、うんうん、といろいろ勉強になった。
それまでの僕は、ユノと一緒にいれるというだけでふわふわしてたから・・。
でも、現実味を帯びた話し合いをした後も、やっぱりユノと一緒に生活したいという僕の気持ちに変わりはなかった。


「いろいろあるんだね・・・」


ぽつりと僕が言うと、ユノが僕のそばに座って言った。


「好きな人と幸せでいたいから、こういうこと、大切なんだよチャンミン」




物件を3つ回った日の夜、ユノの部屋で夕飯を食べ終わった後。


「チャンミン、あのさ・・・」


ユノは次の言葉を慎重に探しているようだった。


「なに?」


「あのねチャンミン。誤解してほしくないんだけど・・・」


「うん?」


「チャンミン、聞いていい?チャンミンは・・・誰かと一緒に住むのは初めて?」


そうか・・・。
ユノは・・・以前、付き合ってた人と一緒に住んでいたんだっけ・・・。


「完全な同棲じゃないけど・・・半同棲みたいな感じだった」


そうなんだね・・。ルカ・・だったよね。
あの当時の僕の心の葛藤が、昨日のことのように鮮やかに蘇った。


「チャンミン・・」


ユノが何を言おうとしてるのか、聞かなきゃと思う反面、聞きたくない気持ちもある。
一緒に住もうとしてる今、なんでこのタイミングで・・・?


「チャンミン・・・今まで違う環境で生きてきた二人の人間が一緒に住むってなると、楽しいことばかりじゃない。喧嘩もあるよ。でも、こういうこともちゃんと話し合える仲でいたいと思ってる」


ユノの言いたいことはわかるよ。
僕は黙って頷く。


黙ってる僕を見て。


「チャンミン・・何考えてる?」


ユノの声は穏やかだった。


「どうして・・・どうしてユノは・・・ルカと・・別れたの・・?」


そう投げかけて、僕は後悔した。
そんなこと、本当はどうでもよかったんだ。
今、ユノは僕のことを一生懸命愛してくれてる。
僕だって以前、付き合ってる人はいたし、出会いもあれば別れもあった。
ユノを嫌な気分にさせちゃったかな、こんなこと聞いて。


「いいよチャンミン。チャンミンが聞きたいことはなるべくなんでも話そうと思ってるから」


・・・チャンミンとチャットやめた後、数ヶ月して会社が倒産して。
ライバルの銀行が受け皿になってくれたことで安心してたんだけど・・・。
同僚がどんどんいろんな国に有無も言わさず異動になって・・・俺も異動の辞令がくるなって覚悟してた。
・・・俺の異動のために相手に仕事を辞めてもらってついてきてもらうなんて、できなかった。
遠距離で続けるとしても、俺はいつこっちに戻ってくるか約束もできない状況で待っててなんて・・・どちらを選んでも相手に強いることが多すぎて、中途半端で無責任な自分も嫌だった。
綺麗事に聞こえるかもしれないけど。
だからね、今振り返ってみてもあの時の選択に後悔してないし、ちゃんとお互い納得して決めたことだから、次を見て歩けてるんだって思うんだ。


淡々と、でも、僕の目を見てユノは話してくれた。


「ルカのこと・・・大切にしてたんだね」


ああ、大切だったよ。
親友でもあった。ただ恋愛してるっていうより、お互いに信頼してたし、いろんなこと話せたよ。
結果、別れることになっちゃったけど。
でもチャンミン、後悔してないんだ。
前、チャンミンにも言ったことあるかもしれないけど・・・そういう経験してきて、俺はそこから学んで前よりもっといい人間になってるって思いたい。
だから、チャンミンを大切にしたいし、幸せにしたいんだ。
このタイミングでチャンミンに話したことがいいことなのかわからないけど・・・ちゃんとこういうこと言わなきゃなって思ったから。


「ずっと一緒にいるよチャンミン。朝も夜も。チャンミンと一緒にいたいから、一緒に住むんだよ」


ユノが手を伸ばして抱きしめてくれた。
ユノの腕の中で、何度も何度も頷いて。


「チャンミンごめんな。俺、うまくチャンミンに伝えられてるかな?それともチャンミンのこと、傷つけちゃったかな・・」


「・・・わかった」


「・・・よかった。チャンミン、大好きだよ。本当に大切にしたいんだチャンミンのこと」


「ん。わかってる」


「よかった、わかってくれて。愛してるチャンミン」


「それでも一緒に暮らし始めたら僕のこと嫌いって思うこともある?」


あははは、とユノが笑った。


「そうだね。そんなこともあるかもねチャンミン。喧嘩もすると思うよ。でもね、喧嘩してもチャンミンのこと知りたいし、守りたいって思う」


「・・・・ユノヒョン・・・」


ユノのこと、そんな風に初めて呼んだ。
ユノがふふふと笑う。
ちょっとだけ呼んでみたかった、と言うと。
ユノはまた笑って僕のほっぺたをきゅっとつねってきた。


「チャンミンは俺の大切な恋人だよ。特別な人」


何度も何度も、ユノは僕を抱きしめながら笑って言ってくれた。

ユノでよかった。
そう思った。


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freedom 73

2013/01/15



ついに、言ってしまった。
ユノと一緒に住みたいってことを。


「チャンミン・・・こっち向いて」


うつむく僕にユノが言う。
僕は半ば観念してユノの言うとおり、顔を上げると。


「チャンミン・・・。二人って・・・。それってもしかして・・・」


「・・・うん」


「チャンミンと俺のこと、だよね?」


うん。
・・・ごめん。
そう口に出た。



「なんで謝るの?」


だって・・・。


「だって・・・?なんでチャンミン」


だって・・・僕が勝手に・・・そう思ってるだけだからだよ・・。
そう言うのが精一杯だった。


「俺と一緒に住むこと・・・勝手にチャンミン考えてたの?」


うん。


「だから、ごめんって謝ってるの?」


うん。


「・・・チャンミン、馬鹿だな」


おいで、ってユノが僕の肩を抱いて、抱きしめてくれた。
泣きそうになった。


「馬鹿だよ僕。ユノと・・一緒にいたくって、一緒に住めたらなあ、なんて。夢見ちゃった」


「俺と一緒に住むこと、夢見てたの?」


うん。


「一緒にいたい?」


うん。
ユノが風邪ひいても、看病できるしさ。
寒くったって一緒にいたらあったかいし。


「じゃあチャンミンが風邪ひいても、俺がチャンミンを看病できるね」


うん。
ユノが寝込んだとき、そう思ったよ。
まあ、もっと前から考えてたけど・・・。


「チャンミンがそんなこと考えてたなんて、気がつかなかったよ」


うん。
ユノが目が覚めたときに、「チャンミン、チャンミン」って僕の名前呼んでくれたでしょ?
一緒に住んだら、帰るとこも一緒だし。
そっちのほうが楽しいかな・・なんて・・。

か細い声でやっと自分の思っていることをぽつぽつとユノに伝える。
ユノは、どう思ってるのかな。


「チャンミンって呼んだら、そばにいてくれる?」


うん。
そばにいるよ。


「いつも一緒だよって言ったら、一緒にいてくれるのチャンミン?」


いるよ。
ユノのそば、離れないよ。


「チャンミン・・・好きだよ。・・愛してる」


・・・一緒に住もう、チャンミン。


耳元でユノがそう言って頭を撫でてくれた。
まさかこんな展開になるとは思わなくって。
またユノの前で泣いてしまった。


チャンミン、我慢させてごめんな。
大好きだ、絶対離さない。
大切にするよ、チャンミンのこと。


ユノはずるい。
僕はいつも自分の中で何度も悩んで。
ユノにこうしていともあっさりと受け入れられる。

でも。
ユノ、ありがとう。
大好きだよ。


ぎゅっと抱きしめられて、ユノの匂いに包まれる。
ユノがいてくれるとこんなにも自分が幸せでほっとするんだ。


ずっと一緒にいよう。


ユノと、僕の約束。
ずっと欲しかった、約束。


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freedom 72

2013/01/14



週明け、気温はもっと冷え込み、連日雪が降り続いた。
ユノから体調が良くなって会社も休まずに行ってるよ、と連絡が来て一安心する。
週末は俺の看病させちゃってごめん、この穴埋めはするから、という。


数日後の夜。
その日も本当に寒くて、背中を丸めながら足早に自宅に戻って仰天した。


エントランスの前に人影を見つけて、一体誰なんだろうと目を凝らすと。


「あ!チャンミン!」


それがユノだとわかって、こんな寒いとこで何してるの!?と駆け寄る。


「ふふふ。これチャンミン好きでしょ?一緒に食べようと思って買ってきたよ」


手に持った紙袋を僕に見せてにっこり笑うその顔が、寒さで引きつっていて。
ガタガタ震えていた。
ユノの背中を押して、すぐ自宅に上げる。


「急に来ちゃって都合悪かった?」


こういうサプライズは嬉しいよ。
でも、ユノ、無謀すぎる。風邪、またぶり返すよ。
それが心配だった。


うん、でもチャンミンに会いたくてきちゃった。
週末いろいろさせちゃったから、そのお詫びもあるけど。
なかなか帰ってこないからどうしようって思っちゃったよ。


ユノは会社からそのまま寄ったみたいで、コートを脱ぐと、スーツ姿だった。
キッチンに立ってお湯を沸かしていると、ユノに後ろから抱きしめられた。


「ん~チャンミンの匂い」


首元に顔を近づけてくるユノがくすぐったくて。
僕の匂いってどんな?と聞くと、「安心する匂い」と言うユノが愛しい。


「チャンミンちって急に人が来てもいつも大丈夫だね。すごく片付いてる」


ゆず茶をユノに渡しながら、そんなことないよ、と言うけれど。


「・・・チャンミン俺んち来たとき驚いた?」


ぶっと吹き出しそうになった。
確かに。
ユノの部屋はお世辞にも片付いている、とは言い難い状況だった。
思わず掃除をしたくなったけれど、初めて訪ねたユノの部屋だったし、そんなことしたらユノを傷つけちゃうかなとも思ってやめたんだ。


「これからはちゃんと綺麗にするよ。チャンミンがいつ来てもいいように。だからさ・・・チャンミンまた懲りずに来てね」


案外ユノはそういうこと気にしてるのかな、なんて思った。


「懲りてなんかないよ。また遊びに行く。今度は泊まりに行く。いい?」


「うん!いいよチャンミン。いつでもおいで。チャンミンのために今度ラーメン作るよ!」


・・・ユノが寝ている間、僕はユノのためにお粥を作ったんだけど。
キッチンや冷蔵庫の中身を見て何となくだけど・・ユノは料理、きっと得意じゃないだろうなって思ったことを思い出した。
それでも、僕のためにラーメン作ると言ってくれるユノの気持ちが嬉しかった。


ユノと一緒に暮らしたらどんなだろう・・・。
ユノを看病しながらそんなことを思った。
きっと僕とは性格が正反対だろうし、僕が掃除して、ユノが散らかすって感じだろうか。
そして、僕が料理して、ユノが「おいしいおいしい」って食べる立場だろうか・・。


週明けもそんなことを考えながら、物件を探していた。
いくつか資料を送ってもらって、二人で暮らしたら・・・という想像ばかりこのところしている。


「これ、何?・・・チャンミン、どっか引っ越すの?」


ユノが来ることを予想してなくて、それらの資料をテーブルの上に置きっぱなしにしていたことに気がついた。


「あ・・うん・・・まだ決めてないけど。もうじきここの契約が終わるから・・・どうしようかなあって思って」


ふぅん、どれどれ、とユノがいろいろ見だす。


「でも、この物件でっかすぎない?これって二人用じゃないの?」


そう言われて、バレたかな僕が考えてること・・・と下を向く。


「う、うん。・・・二人で住むのも・・・もしかして・・楽しいかな・・なんて・・」


「二人?」


あ、言っちゃった。
僕は後戻りができなくなって、あははと力なく笑った。
ユノがどんな顔をしてるのか、見たいけど見れない。


「チャンミン・・・」


ああ、恥ずかしい。
こんな状況で言うつもりはなかったのに。


ただひたすらうつむいてると。
ユノが僕の頭をぽん、と叩いて、髪の毛をくしゃっとされた。


その手が。
あったかかった。


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