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ぼくのうちに居候がやってきた10




その日、僕はなるべく早く帰って夕飯を作るつもりでいた。

ユノの仕事の初日。

きっと新しいことを覚えるのに精一杯で、気疲れしたに違いない。
それに、ユノが「頑張ります」って言ってたから、話をきいてやりたいとも思っていた。

しかし、帰り際になって上司から急ぎの仕事を頼まれて。
仕事なら仕方ない。
結局仕事が終わってアパートに着く頃には、午前様になってるだろうなという時間になってしまった。

ああ。
そういえば、ユノって携帯もってたんだっけ?
連絡しようにもそれさえも知らなかった自分に気がついた。

ユノのことだ。
きっと僕が帰ってくるまで律儀に起きて待ってるに違いない。

仕事が入っちゃって今夜帰りが遅れるから、先に寝ててくださいね。
そう伝えようとしても、どうしようもなくて。


僕は仕事が終わってアパートへ急ぐ。


やっぱり・・・!

遠くから僕の部屋の明かりがついているのが見えた。
走って部屋に帰る。


「ただいま!」


返事がない。


どうしたんだろうと部屋にあがると。
炬燵のテーブルには夕ごはんが手付かずにおいてあり、その横でちゃんちゃんこを着たユノがぽかんと口を開けて
すぅすぅ寝ていた。

ああ、やっぱり待ってたんだ、僕のこと。
今日の疲れと、僕を待ちくたびれて寝ちゃったんだね。


「ユノさん、ただいま帰りました。風邪ひきますよ」


肩をぽんぽんと叩き、ユノを起こす。


「ん・・・あ・・・チャンミンさん、おかえりなさい。あれ・・?僕、寝てましたか?」


半分寝ぼけてるのか、どういう状況にいるのか把握できていないようだった。


「今日残業で遅くなっちゃって・・・。ユノさんも今日、大変だったのに・・・すみません」


頭を下げると、ユノは僕の手を握って「外、寒かったでしょう?今日も一日、お疲れ様でした」
いつもの笑顔を見て、僕はほっとした。

今から遅いけど、ご飯食べましょう、と、テーブルの冷えた料理をあっためる。


「今日、仕事どうでした、ユノさん?新しいことで、疲れたでしょう?」


いえ、店長さんも、皆さん僕に優しくしてくれて、なんとかできました。
えぇと・・・と言って、猫の手帳を持ってきて、「店長さんに・・・ゆりこさん、さちえさん、のりこさん・・・」


一緒に働く人?と聞くと、
そうです!みなさんとってもいい人で、さちえさんは僕と同い年ぐらいの息子さんがいるって・・・、僕のこと「ゆのちゃん」って呼ぶんです。のりこさんもゆりこさんも、旦那さんがお仕事行ってる間に私たちも仕事してるのよって言ってました。


ユノの話を聞いていて、なんとなく想像できた。
よかったねユノさん、みんな優しそうだね。
はい!僕、嬉しいです。明日も頑張ります!


ひとまず、安心。
ユノのことだから、きっとうまくいく。


「チャンミンさん、僕、明日からも、夕ごはん作ります。だから心配しないでください」


もともと帰りが遅いこともあって、夕ごはんの支度についてはルールを決めてなかったから。
じゃあユノさんの言葉に甘えてお願いします、でも今日みたいに僕の帰りがとっても遅いときは先に食べててくださいね、と言うと、了解してくれた。


部屋の隅にふと目をやると、今日着ていったグレーのセーターが綺麗にたたんで置いてある。


「チャンミンさんの貸してくれたセーター、とってもあったかかったです」


僕はわざとらしく、ああそうだ!と言って。
昨日買い物で買いすぎちゃったから、ユノさん、何着か使ってくれませんか?と、本当はユノのために買ってきた
洋服の入った袋を差し出すと。


「昨日買ったの、全部じゃないですか?」という顔をするので。
ああそうだったかな、よく覚えてないです、としらばっくれてユノに全部押し付けた。


「何着あっても無駄にはならないし。着ていってください」


ユノは僕の顔をじぃっと長い間見つめるので、ドキドキした。
僕の見え透いた嘘がバレるんじゃないかと。


「じゃあ、お言葉に甘えて。チャンミンさんありがとう。大切に着ます!」


いつもの「にこぉっ」を見て、僕はまたほっとした。



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