ユノさん・・・まさか・・・。
「ユノさんっ!!」
僕は思わず叫んだ。
ユノは自分の名前が呼ばれているのに気がついたみたいに、
辺りをキョロキョロ見回して、声の出処を探しているようで。
「ユノさんっ!ユノさんっ!!」
ホームにいた人達が何事かと、必死にユノの名前を呼ぶ僕に視線を注ぐ。
その時に、アナウンスが聞こえて、向こうから電車がやってきた。
「ユノっ!!!」
必死に叫んだ。
「ユノッ!!!行くな!!!!」
その声にユノは僕を見つけて、あっ!という表情をした。
何か言いかけた瞬間、ユノの声と姿は、ホームに入ってきた電車にかき消された。
僕は、反対側のホームへと、階段を駆け上がる。
電車を降りてきた人の波に飲まれそうになりながら。
今、ユノを行かせたら、僕は絶対、後悔する。
心の準備は出来ていた・・・つもりだった。
でも、ホームに心細そうに立つユノの表情を見て、そんな気持ちは吹き飛んだ。
くそっ・・ユノさん、行くなよ。
「すみませんっ・・・、すみませんっっ!!」僕は大きな声で謝りながら、
人の流れに逆らって、ひたすら走る。
紙袋から買ったりんごが飛び出して、階段を転がり落ちていった。
発車のベルが聞こえる。
ユノ・・・ユノ・・・待って・・・このままさよならなんて、こんなの受け入れられるかよ!
最後の4段を一気に飛び降りて、ホームの地面を踏んだ瞬間に。
目の前を、電車が動き出して、僕の前を無情にも通り過ぎていく。
自分で心臓が止まるんじゃないかと思うほど、走ったのに。
・・・・間に合わなかった・・・。
なんで・・・なんで、ユノさん・・・こんな風に行っちゃうんだよ・・。
小さくなっていく電車を、僕は見送ることしかできなかった。
・・・悔しい。
こんな最後を迎えることになったことが、悔しいよ。
ユノさんは・・・納得してるの?
問いかけたくたって、もう会えない。
もう会えないんだ。
放心状態で、ホームに立ち尽くす。
けれど、次の電車を待つ人たちがホームにちらほら集まってきて、
僕をほおっておいてくれはしない。
ホームに転がったりんご・・・・拾わなきゃ。
ユノの喜ぶ顔が見たくて、奮発して買った・・・。
一つ一つ、そして、最後のりんごを拾って立ち上がろうとした時。
視界に、見覚えのあるスニーカーが入った。
視線を上げると、そこに・・・・ボストンバッグを抱きしめた、ユノが立っていた。
僕は自分の目を一瞬疑った。
ユノは何も言わずに、黙って僕を見つめて、そこに立っていた。
その傍らには、シスターが寄り添っている。
「ユノさん・・・・電車・・・乗らなかったんだね・・?」
「・・・はい。チャンミンさんの声が・・聞こえました。行くなって、チャンミンさんの声、聞こえました」
そうだよ、ユノさん。行くな、って、言ったんだよ。
心の奥深くから、じわじわと熱いものがこみ上げてきて。
我慢が出来ずに、僕は人目もはばからずユノを抱きしめて、泣いた。
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