入口 > スポンサー広告 > スポンサーサイトstay gold > stay gold 4

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

stay gold 4




その日以降もあいかわらず、僕は毎日湖に行って練習に勤しんだ。


被写体になってくれない?と僕に言ったあの人。
ちょっとだけ心の中で「今日はいるかな」なんて思いながら、いつもの小道を走る。

あんな風に声をかけられたこと、今までなくて。
横顔がきれいだ、なんて言われて、ちょっといい気になってた自分もいて。
練習に明け暮れてぱっとしない毎日を送ってた僕にとって、彼からのその言葉はちょっとした刺激にもなっていたし、
僕の年齢にありがちな、「目立ちたくはないけど、自分を特別だって思って欲しい」っていう気持ちもあったのかもしれない。



でも、あれから彼には・・・遭遇することはなかった。



確か、湖の近くに住んでるって言ってたけど・・・。
もしかしたら、平日は普通に会社員とかしていて、休みの日だけ趣味で写真撮ってるってこともありえるし。
プロのカメラマンだったら、スタジオとかで撮影してるってこともありえるし。


彼が現れない理由を、延々と考えながら、また今日も僕は小道を走る。


と、その時。


向こうから・・・・。
彼が、歩いてきた。


ちょっとだけ、ドキドキする。
僕のこと、気がついてくれるかな。


距離がだんだん縮まったところで、僕に気がついてくれたみたいで。
やあ!と手をあげる。


「久しぶりだね。今日も走ってる」


声を掛けられて、足を止めて、彼に会釈する。


「こないだはありがとう。タオル・・・助かったよ」


あ、いえ・・どういたしまして・・・。
ちょっとだけ済ました顔して言ってみる。


「タオル、今日持ってないんだ。うちにおいてあるんだけど・・・」


いいです、いつでも。
またそっけない返事。


「うん、それじゃあ今度君に会ったら必ず返すね」


タオルなんて、ホントにいつでもいいんだ。
そんなこと気にするなんて、律儀な人だなって思う。


もう少し、話してもいいかなと思って僕が質問する。
どんな写真、撮ってるんですか?


ああ、うん、特にレパートリーはないけど、風景より人を撮るのが好きかな。


・・・鳥とか湖とか、空とか、そういうのを撮ってるのかと思いました。


まあ、たまに撮ったりもするけど。興味を持った人の表情とか、写真を通してその人の心とか撮れたらなって
思うから、やっぱり人が中心かな・・・。


へぇ、そうなんですね。
そう言ってみて、なんて自分は気の利かない、つまらない返事しかできないんだろうと思った。


そういえば・・・被写体になってほしいって話・・・。


彼が切り出す。


考えてみてくれた?


あ、えぇと・・・。言葉を濁す。
実のところ、真面目には考えていなかった。
興味がなかったわけじゃないけど、被写体って言われても、何かリクエストされてポーズ取ったりするのかとばかり
想像してたから。そんなこと、僕にできるのかって疑問だったし。


いや、そんなこと頼まないよ。
ただ、きみはいつものとおりにしててくれればいい。


聞くと、僕はいつもどおり、マラソンしたり、筋トレしたり、
乗艇練習したり、それでいいって言うから。


そんなんでいいんですか?と聞くと、
それがいいよ、別に不自然なきみを撮りたいわけじゃない、って言う。


それなら、別に技術もいらないし。
練習の時間を割かなきゃいけないわけでもないし。


わかりました、うまくできるかわからないけど、僕でよかったら・・。


そう返事をすると、彼は笑いながら、うまくやろうとする必要はないよ、と言う。


じゃあ、ここに僕の連絡先、書いとくね。


紙を渡された。


チョン ユンホ・・さん・・。


ああ、ユノでいいよ、と言われたけど、
年上の人に向かって呼び捨てなんてできないし。


じゃあ、ユノさんで。


うん、いいよ、それで。


僕、シム チャンミンっていいます。


・・・チャンミンくん、か。素敵な名前だね。


あ、どうも・・・。ちょっと照れる。
でも、「くん」呼びされるのも、なんだかしっくりこない。
もちろん友達からは呼び捨てだし、だから「チャンミン」でいいです、って言ってみる。


じゃあ、「チャンミン」ね。
彼がにっこり笑う。


渡された紙には、ユノさんの携帯の番号とメルアドが書いてあった。


じゃあ、僕も、と、ユノさんにペンを借りて僕の連絡先を書いて渡す。


「今どきの高校生って、携帯持ってるんだ」


へぇ、という顔をするから。
今じゃあ、小学生だって携帯持ってますよ、と言うと。


そうなんだぁ、と、純粋に驚いた顔をする。
あんまり最近の若い子のこと、知らないんだ、と言う。


どう見ても、ユノさんは僕よりものすごい年上には見えない。
たぶん、見た感じ、20代前半だ。


流行とかに疎いんだよ、と照れた顔をする。


なんだか、ユノさんは兄貴みたいな関係で付き合えそうな感じがした。
僕には男兄弟がいないから、ちょっと新鮮だ。


早速、ユノさんは、僕の毎日の湖でのスケジュールを聞いてくる。
その日によっても練習のメニューや順番は違うけど、大体こんな感じです、と伝える。
これから日が長くなるから、練習が終わるのも遅くなってくると思います。
ここには授業が終わってくるから、これぐらいの時間には到着してます、と言うと。


うんわかった。いつもはこれないかもしれないけど、
ちょっとスケジュール確認して、メールするけどいい?


はい、大丈夫です。



聞くと、ユノさんはプロの写真家を目指してるらしい。
バイトが入ってるから、写真だけやるってことは無理なんだけど。
いつか、写真で食べていけたらなって思ってる、って。


そう話したあとで、


あ、ごめん。話しすぎたね。マラソン、中断させちゃったね。
早く行かないと、次の練習、できなくなっちゃうね。


言われて僕も、あ、そうでした、と気がつく。


とにかくメールするからさ、と言われて。


僕はマラソンのルートに戻った。



もらった紙をなくさないように、握りしめて。



ちょっと気になって、後ろを振り返ると。


ユノさんが、僕の後ろ姿を、写真におさめているようで。


ただ後ろ姿、撮られただけなのに。
僕はまた、ちょっと気恥ずかしくなった。





チャンミン3-1




関連記事
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。